IT業界で長年課題とされてきた「レガシーシステム」。古くから使われ続けてきた業務システムが、技術的・運用的な制約となり、現場の業務に影響を及ぼしている──そんな状況は、どの企業にも少なからず存在しています。
今回ご紹介するのは、まさにその“レガシー問題”に若手社員が挑んだプロジェクトです。対象となったのは、ある事業部門で長年使われてきた「受発注管理システム」。開発当初は業務にフィットしていたものの、時代の変化や業務拡大に伴い、徐々に限界を迎えていました。
それでも長らく「なんとかやりくりしてきた」背景には、仕様の複雑さや、システム全体像の不明瞭さ、そして「下手に手を出すと業務が止まってしまう」という恐れがありました。そんな中で、プロジェクトの先陣を切ったのは、入社3年目の若手エンジニア。彼が挑んだのは、ただのシステム改善ではなく、“歴史を背負った仕組み”との本格的な対峙でした。
誰も全容を把握していない──それがレガシーの厄介さ
プロジェクトの最初の壁は、「誰もこのシステムを完全には理解していない」という現実でした。運用に携わっている現場メンバーですら、全体の流れや裏側のロジックまでは把握できておらず、担当者によって使い方や対応ルールが異なっている状況でした。
彼はまず、「見えないシステムの姿を可視化する」ことから始めました。ログを追い、コードを読み、現場のヒアリングを重ねながら、システムの仕様やフローを一つ一つ整理していきました。
「最初は本当に、“謎解き”のようでした。画面の裏で何が起きているのか、誰の操作がどのデータを動かしているのか。それを調べるだけで1ヶ月以上かかりました。」
そうした地道な作業の中で見えてきたのは、度重なる小規模改修や“場当たり的な対応”によって、システムが複雑化・分断化していたという事実でした。
技術と現場の板挟み──再構築に必要だった「調整力」
次のステップは、「では、どう作り直すか」。再構築と言ってもゼロから新しくするにはコストも時間もかかりすぎます。現実的な選択肢として、既存機能を見直しながらモダナイズ(近代化)していく方向性が決まりました。
ここで鍵になったのは、“技術的に正しい設計”と“現場が納得できる操作性”の両立です。彼は新たに画面仕様書を作りながら、現場のオペレーションに合わせたUIや処理フローの設計を担当しました。
「自分では『この方が効率的だ』と思っても、実際の業務に合わなければ意味がない。現場の人が“違和感なく”使えることが一番重要でした。」
要件のヒアリングと、開発側の仕様とのすり合わせを何度も繰り返しながら、少しずつ合意形成を進めていきました。ここで求められたのは、単なる技術力だけでなく、“相手の立場を理解する力”でした。
若手の挑戦が「業務を変える」実感に変わった瞬間
試行錯誤の末に新しいシステムが完成。リリース後は一部部署から先行導入を行い、実際の業務でフィードバックを集めながらブラッシュアップを続けました。
特に現場から評価されたのは、「これまでの無駄な確認作業やエラー対応が減った」という点。また、操作画面の設計も「直感的でわかりやすい」との声があがりました。
「正直、完成するまではずっと不安でした。でも、現場の人が『すごく使いやすくなった』『これなら新人でもすぐ覚えられる』と言ってくれたとき、“ああ、ちゃんと役に立てたんだ”って思えました。」
長年使われ続けてきた仕組みに手を入れる──その難しさと重みを実感しながらも、彼はそれを乗り越えることで、大きな成長を手に入れたのです。
若手にも挑戦の機会がある。それを支える文化がある
今回のプロジェクトを通じて印象的だったのは、「若手社員が主導でここまで任せてもらえるんだ」という点です。もちろんすべてを一人でやったわけではありませんが、設計・調整・開発の多くの場面で彼の判断が求められ、尊重されてきました。
「最初は“自分なんかで大丈夫なのか”と不安でした。でも、困ったときは周りの先輩が助けてくれたし、“やってみろ”と言ってもらえる安心感があった。」
失敗を恐れず、挑戦する姿勢を大切にする。それを支える文化や風土があるからこそ、若手のチャレンジが現実の成果につながっていくのです。
スケールの大きなシステムを知ることは、キャリアの財産になる
この受発注システムは、単に一部の操作を置き換えるだけのものではありませんでした。日々大量の受注・納品・在庫管理を支える、業務の“根幹”にあたるシステム。その再構築を経験することで、彼は「システムが事業に与える影響の大きさ」や、「一つの改修がどれだけ多くの部門に波及するか」といったスケール感を体感しました。
「一画面の修正にも、複数部署の業務フローを理解して、連携を考えなければいけない。最初はその規模感に圧倒されましたが、逆にそれがすごく面白かったです。」
こうした経験は、今後どんなプロジェクトに関わるにしても活かせる“視座の高さ”や“構造的な思考力”につながります。単なるプログラミングスキルだけでは得られない、将来のキャリアに活きる知見が、現場の中で積み上がっていったのです。
技術だけじゃない。人と向き合う経験が成長につながる
最後に彼が語ってくれたのは、「一番成長したのは、技術よりも“人と向き合う力”だったかもしれません」という言葉でした。
「システムって、結局は“人の業務”の上にあるものなんですよね。どんなに機能がすごくても、現場の人が使いにくいと意味がない。そのことをすごく実感しました。」
レガシー再構築という技術的なチャレンジ。その裏には、現場との対話、調整、合意形成という、社会人としての基礎力を磨く絶好の機会がありました。
「自分も何かに挑戦したい」──そう思ったあなたへ
このコラムを読んで、「自分も何かに挑戦してみたい」と思った方がいれば、それはきっとチャンスの前触れです。当社では、経験や年次に関係なく、意欲ある若手にプロジェクトを任せる風土があります。
そして、その挑戦を支える仲間や環境があります。
レガシーを変えることは、会社の未来を変えることにもつながります。若手の一歩が、現場を動かし、組織を変えていく──そんな挑戦が、ここにはあります。
【キャリアのヒントまとめ】
このプロジェクトから得られる“キャリアのヒント”を、最後にまとめます。
🔹 業務を支えるシステムの全体像を把握する力:技術力と業務理解のバランスが重要。
🔹 調整力と対話力:ユーザーや関係者と意図をすり合わせ、納得感ある設計を実現。
🔹 スケールの大きな仕事への関わり:会社全体に影響を及ぼす仕組みに触れる経験は貴重。
🔹 “わからない”を放置しない姿勢:見えない部分を調べ尽くす姿勢が信頼につながる。
🔹 挑戦できる文化の活用:手を挙げれば任せてもらえる、という環境を逃さずに活かす。
挑戦のヒントは、すぐそばの現場にあります。あなたの一歩が、キャリアを切り拓くきっかけになるかもしれません。