はじまりは、静かなやりとりから
「最近、エンドユーザさんとのやりとりも増えてきたんですよ。少しずつですけど、頼られてる実感が湧いてきて……」
ある若手エンジニアが、リモート会議の後にふと漏らした一言。画面越しの表情には、少しだけ自信がにじんでいました。
彼が所属するチームは、大手セキュリティ企業のECサイトを構築・運用しています。開発に使うのは、ecbeingというプラットフォーム。システムの規模は大きく、フロントエンドからバックオフィス、決済、配送、DM発送までが連携した複雑なシステムです。
このプロジェクトには、若手エンジニアたちの学びと成長、そして自らの意思で道を切り拓く姿がありました。
巨大なシステムと、向き合う日々
対象となるECサイトは、単なる“モノを売る場所”ではありません。商品の購入、代理購入、返金処理、DMの印刷・発送、物流までを包含した、まさに“事業インフラ”です。
このサイトは、パッケージ商品を扱うため、多くの業者と連携が必要になります。バックエンドでは、SQL Serverを活用しながら大量の取引データを安全に、かつ高速に処理。開発にはVisual Studio、バージョン管理にはTortoiseSVN、チケット管理にはBacklogといったツールを使っています。
働き方は基本フルリモート(月・火・木・金が在宅勤務)。距離は離れていても、Teamsを通じたやりとりが日常の風景です。
プロジェクトには、運用・保守チームに加えて、新機能や追加仕様を開発する追加開発チームが存在します。若手たちが関わるのは、この追加開発チーム。常に“変化”と“対応”が求められる現場です。
若手たちの入り口――「仕様って、どう読むんですか?」
プロジェクトに参加したばかりのある若手エンジニアは、最初の打ち合わせで戸惑いました。
「この仕様書……読んでも、何がどこで使われているか全然つかめなくて」
それもそのはず。このシステムでは、過去の複数リリースが積み重なっており、初期設計の資料と現行仕様が一致していないケースもしばしば。仕様そのものが“生き物”のように変わっているのです。
そんな中、先輩エンジニアたちは「まずは1つの流れを追ってみよう」「コードとDBを一緒に見てみよう」といった助言を重ね、キャッチアップを支援しました。気づけば、若手エンジニアたちは自然と“質問しやすい空気”をつくっていきました。
自律的に動くことが求められるリモート環境だからこそ、SlackやTeams上での“ちょっとしたひと言”のやりとりが大きな意味を持ちます。
成長エピソード1:「決済まわりの機能追加で見えた“設計の奥深さ”」
あるとき、追加開発チームに「新決済手段への対応」というタスクが舞い込みました。仕様書は存在したものの、過去に似た処理が複数の場所に分散しており、「既存コードのどこを活かすか」「どこを新規で書くか」の判断が求められる状況。
ある若手エンジニアは、DB設計から画面遷移、エラー時のハンドリングまで、先輩とペアで検討を重ねました。テスト環境では一見正常に動いていた機能が、ステージング環境で思わぬエラーを吐いた場面も。
原因は、既存の配送業者連携モジュールの仕様と、今回の決済処理がバッティングしていたこと。つまり、データの“流れ”を深く理解していなければ見つけられないような構造的課題でした。
この一件を通じて、若手エンジニアたちは「設計は“今だけ”を見るものではない」「設計書がないなら、コードが“真実”だ」と学んでいきました。
成長エピソード2:「決まりごとがない。だからこそ、自分たちで決めていく」
このプロジェクトの特異な点は、「作業フローやドキュメントの標準化が未整備である」ということ。
最初は「どこまでが自分の範囲?」「何をレビューに出せばいいの?」という戸惑いもありました。しかし、ある若手エンジニアが口火を切ります。
「この作業、毎回やり方がバラバラだから、簡単な手順書を作ってみませんか?」
その声から、少しずつ“お約束”が生まれ始めました。Pull Requestのテンプレート、レビュー依頼時のチェックポイント、リリース前の確認リスト……。
形式化されたプロセスがなかったからこそ、現場の課題感から生まれた“自分たちの流儀”。それは、確実にチームの生産性を押し上げていきました。
信頼される存在へ――ユーザとの距離が変わる瞬間
エンドユーザとのやりとりは、BacklogやTeamsでの非同期のやりとりが中心です。ただ、仕様の認識違いからトラブルが起きたときなどは、短時間でもミーティングを行うことがあります。
ある日の会議後、クライアント担当者がこう漏らしました。
「以前よりも、話がスムーズに進むようになりましたね」
その言葉は、若手チームにとって何よりの励みとなりました。
ただ“指示された開発”ではなく、“信頼して任せられる相手”として見てもらえた——。そんな瞬間の積み重ねが、チーム全体のモチベーションを押し上げています。
これからの挑戦と意気込み
現状、このプロジェクトには初期リリースや過去の大型リリースで発生した課題が多く残っています。追加開発チームは新機能開発だけでなく、それら保守課題の対応にも力を割いているのが実情です。
しかし、若手エンジニアたちは声を揃えてこう語ります。
「だからこそ、手を動かすだけではなく“仕組みを変える”提案ができるチャンスでもある」
「ドキュメントや作業ルールを整えて、後輩に渡していける土台を作りたい」
日々の開発業務に追われながらも、彼らの視線は“チーム全体の未来”に向いています。
読者のみなさんへ――他人の成長に学び、自分の一歩を見つけよう
ECサイト構築プロジェクトで働く若手エンジニアたちは、決して“理想的な環境”で仕事をしているわけではありません。むしろ、仕様は複雑で、資料は不完全で、整備されていないことも多い。
それでも彼らは、“だからこそ、やれることがある”と信じて行動しています。
今、自分の仕事に少し不安がある方、自分の成長が見えにくく感じている方へ。
誰かの成長エピソードには、必ず「明日の自分」が重ねられる瞬間があります。ぜひ、そんな視点でこのプロジェクトの姿を受け取ってください。
そして、変化を楽しみ、学びを糧にして、自分だけの挑戦を重ねていく——。そんな仲間が、社内にどんどん増えていくことを、私たちは心から楽しみにしています。