私たちの生活を当たり前のように支えているソフトウェア。しかし、もしそれが正しく動かなくなったら、世界はどうなってしまうのでしょうか。また、AIが当たり前となる時代において、その「品質」はどう担保していけばよいのでしょうか。 毎週水曜日に開催されている社内向けのAI・開発・QAテーマの勉強会。第11回目となる今回は、AIQユニットから26新卒の3名(M.O.さん、N.A.さん、Y.S.さん)が合同で登壇しました。 テーマは「品質の重要性と今後の課題~SQA 26新卒が学んだこと~」です。新卒メンバーならではの新鮮な視点と、答えのない未来の課題に向き合う姿勢が語られたセッションのエッセンスをお届けします。

1. ソフトウェアの不具合が招く甚大な被害と「品質」の重要性
まずY.S.さんが言及したのは、「そもそもなぜ品質が必要なのか」という根本的な問いです。現代においてソフトウェアは、メッセージの送受信や電子決済など、生活に必要不可欠なものとなっています。 もしソフトウェアに問題が起きたらどうなるのか、Y.S.さんは過去の具体的なシステム障害の事例を3つ挙げました。
- ・病院の電子カルテ等のシステム障害による、診断の中断や患者受け入れの停止といった、命に関わる事態。
- ・大手ファストフードチェーンにおけるAI音声受注システムの誤動作による、顧客体験の悪化や提携終了といった信頼と利益の損失。
- ・物流システム障害による、スーパーや飲食店での欠品という生活必需品流通への影響。
Y.S.さんは2002年のレポートを引き合いに出し、ソフトウェアの欠陥がアメリカに年間7兆〜8兆円もの損害を与えているとされること、そして適切なテストを実施すればその約3分の1は回避できる可能性があることを指摘しました。品質の問題は一企業にとどまらず、社会や業界全体の課題と言えます。
2. 「品質の良し悪し」は立場によって変わる?品質特性のトレードオフ
続いてN.A.さんから、「そもそも品質とは何か」というテーマで深掘りが行われました。国際的な定義では「明示的および暗黙的要件を満たしている度合い」とされていますが、求められる基準は立場や状況によって変わるとN.A.さんは語ります。 例えば目玉焼きの焼き加減において、半熟派の人に半熟を提供すれば基準を満たしますが、固焼き派の人に提供すれば基準を満たさないことになります。 また、品質を多角的に見るための「品質特性」として、機能適合性、性能効率性、使用性、セキュリティなどが存在します。N.A.さんは「災害時の避難支援アプリ」を例に、これらの品質特性の間に発生するトレードオフについて出題しました。
- ・A案:すぐに誰でも簡単に使える(使用性は高いが、セキュリティは低くなる)。
- ・B案:本人確認がありセキュリティを重視する(セキュリティは高いが、使用性は低くなる)。
災害時という一刻を争う状況では、セキュリティを重視して本人確認をする時間的猶予はないため、どうしても品質特性のトレードオフが発生してしまう場合があります。だからこそ、状況や立場に応じて品質を考えることが重要なのだと強調されました。
3. 最新データ基盤「Databricks」と、AI時代のテストの“正解がない”壁
最後にM.O.さんが、複雑化するソフトウェアと生成AI普及の象徴として、データ基盤「Databricks(データブリックス)」について発表しました。 Databricksが提供する「データインテリジェンスプラットフォーム」は、従来の構造化データを扱う「データウェアハウス」と、あらゆる生データを扱う「データレイク」の長所を併せ持つ「データレイクハウス」を土台とし、そこにAIを統合したものです。これにより、専門知識がなくても自然言語でエージェントを自動作成したり、データ分析を行ったりすることが可能になります。 しかし、「このようなシステムをどうテストするのか?」という究極の問いに対し、M.O.さんは「結論から言うと、わからない」と率直に語りました。
- ・AI相手では同じ質問をしても返ってくる答えが一つとは限らないため、従来のテスト手法が通用せず、何をもって正解とするかの基準がわからない。
- ・AIへの聞き方のパターンは実質無限にあるため、どこまでテストをすれば十分と言えるのかがわからない。
- ・裏のモデル更新や学習データの変更があればAIの答えが変わる可能性があり、今日テストに合格しても明日合格であり続ける保証がない。
M.O.さんは、このわからないことだらけの課題に対し、今後の業務を通して探求していきたいと締めくくりました。
4. Q&Aと制作裏話:新卒メンバーのユニークな視点
質疑応答の時間では、参加した社員との活発な意見交換が行われました。 日常的なAI活用方法に関する質問に対しては、三者三様の答えが返ってきました。
- ・M.O.さん:自分自身の考えを客観的に見つめるための自己分析や、壁打ち相手として活用。
- ・Y.S.さん:知識が全くない分野について調べる際、ゼロからイチへと形にするための第一歩目の調べ物として活用。
- ・N.A.さん:料理のレシピや言葉の意味など、従来のネット検索(ググる)感覚の代わりとして活用。
さらに、今回はまだ社内のAI利用申請ができていなかったタイミングでの発表準備だったため、英語のEラーニング動画に字幕をつけて苦労しながら読み解き、一から手作りで資料を作成したという、新卒ならではの熱意と苦労話も語られました。
編集後記
毎週開催されている社内勉強会ですが、今回はAIQユニットの26新卒3名による、フレッシュでありながらもテクノロジーの核心を突く素晴らしいセッションでした。AI時代における「品質」は、単なるバグ探しにとどまらず、「人間がどうAIの不確実性と向き合い、何を正解と定義するか」という壮大なフェーズに突入しています。 正解がない領域だからこそ、質疑応答で先輩社員が語った「なぜそうなったんだろうと他人の作った観点に興味を持つこと」が、品質を高める大きな鍵になるのだと感じました。
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