導入──「撮る」ではなく「支える」側の視点で
「自分が作ったUIが、プロの現場で使われているなんて、想像もしていませんでした。」
そう語るのは、ある若手エンジニア。テレビ局や映画撮影の現場など、プロフェッショナルな映像制作の最前線で使用される“業務用カメラ”──その制御機能やユーザーインタフェース(UI)の開発に携わるという、めったにない経験のなかで、確かな手応えを掴みつつある。
本プロジェクトの対象は、国内大手の映像機器メーカーが開発する、ハイエンド市場向けの業務用カメラシステム。制作規模に応じた細かな調整が可能な高機能性を備えており、その多機能性を現場でストレスなく操作できるかどうかが、システム全体の使いやすさを左右する。
若手エンジニアは、カメラの画づくりに直結する各種機能制御を、ユーザーが扱いやすい形で提供するUIの改修を任されていた。まさに、“使うプロの感覚”に寄り添う技術を設計するという、挑戦的な業務だった。
プロジェクト背景と技術環境──“制御の塊”をUIでつなぐ挑戦
このプロジェクトは、2024年春に開始された。開発チームは、映像機器メーカーの設計部門、業務委託先の中核エンジニア、複数の協力会社メンバーで構成されており、その一員として、当社から若手エンジニアが参加する形となった。
働き方は基本的にフルリモート。チーム間のコミュニケーションにはチャットツールやWeb会議を活用しながら、数十人規模の体制で開発が進められている。
使用している技術スタックは、VC++、Linux、MySQL、GitLab、Pythonなど。対象となるカメラは、Auto Exposureやホワイトバランス、手振れ補正、シーン認識といった高度な映像制御を内包しており、各種制御モジュールとの連携やUIの配置設計など、難易度の高い技術的課題を多く含んでいた。
若手の関わりと学び──“知らない”ことに正面から向き合う
プロジェクトに参画した若手エンジニアが、まず直面したのは「仕様が複雑で分からない」という壁だった。多機能かつ製品横断的なソース構造のため、理解を深めるためには断片的な情報を丁寧に拾い上げ、つなぎ合わせる粘り強さが必要だった。
開発初期は、要件定義書や試験仕様書の作成も、先輩エンジニアの支援を受けながら進めていたが、「最終的には自分で書けるようになりたい」という強い意志を持ち、日々のレビューや試験の実施を通じて少しずつステップアップしていった。
特に印象的だったのが、プロジェクト内に整備されていた社内Wikiの存在だった。製品仕様や操作ロジック、過去の改修履歴などが体系的にまとめられており、知見を自力で探しに行ける環境が整っていた。
「ここまで整ったドキュメントに出会ったのは初めてでした。もちろん検索には苦労しましたが、それでも“ゼロから調べるよりはるかに助かりました」と本人は振り返る。
成長エピソード──“ifdef地獄”との格闘と、初めての成果
実際に若手エンジニアが担当した改修業務は、不具合対応に伴うUI変更だった。修正対象となるコードは、一見単純に見えたが、複数製品のビルドを一つのソースで管理しているため、多くの条件コンパイル(ifdef)が存在していた。
「ビルドに40〜50分かかる上、挙動の違いが見つけにくい。しかも、影響範囲がなかなか読めない」──そんな制約の中、先輩と相談しながら改修ポイントを一つずつ丁寧に確認し、テストコードを交えて修正を進めた。
コードレビューを経て、実装は無事にメインブランチにマージ。単体試験や結合試験の結果も良好で、最終的にリリースに至った。
「レビューで“いい対応でした”とコメントをもらえたとき、本当に嬉しかったです。」
そんなひとつの成功体験が、次の挑戦への意欲をさらに高めることとなった。
周囲との連携・信頼構築──“質問できる雰囲気”があるという安心
このプロジェクトでのもう一つの学びは、「助けを求めやすい環境づくりの大切さ」だった。チャットやオンライン会議で日常的にやりとりし、疑問や提案をすぐに共有できる文化が根付いていたことで、若手でも安心して自分の意見を出せる雰囲気があったという。
「質問しても“そんなのも知らないの?”みたいな空気が一切なくて、むしろ“よく気づいたね”と返ってくる。それがとても励みになりました。」
こうした積極的な姿勢は、次第に「これ、任せていい?」と声をかけられる場面にもつながっていった。若手が“指示待ち”ではなく“提案できるメンバー”として見られるようになるまで、それほど時間はかからなかった。
今後の展望──「制御の先」にあるものを目指して
現在は、まだUIや基本的な試験業務が中心ではあるが、今後はより複雑な制御ロジックや、機能設計そのものに携わっていきたいという意欲も芽生えている。
「最初はカメラの知識なんてまったくありませんでした。でも、触れていくうちに“映像の裏側”の面白さが見えてきた。もっと深く知りたい、設計にも関わってみたい──そんな気持ちが出てきました。」
チームとしても、属人化を避けながらメンバーの裁量を広げ、個々の得意分野を活かせる体制へとシフトしていく予定だという。
まとめ──“分からない”を越えていく楽しさを、次の誰かへ
今回のプロジェクトは、派手な技術スタックを使った開発ではありません。けれど、“誰かが使う機能”を現場で役立つ形に落とし込む──そんな、地に足のついた設計と実装の積み重ねが、エンジニアとしての土台力を鍛えてくれる環境でした。
もし今、「新しい分野に挑戦してみたい」「技術だけでなく使われ方まで意識して設計したい」と思っているなら、この現場にはそれが叶うチャンスがあります。
“使う人”に寄り添うものづくりを、あなたも一緒にやってみませんか?